「デスペラード」


 その男は、いつもひとりだった。
 数々の街を、村を巡り、人々と話もした。しかし、彼の周囲にはいつも他者を拒む結界が張られていた。
 男が望んで張ったものではない。しかし、彼は結界を破ろうとはしなかった。いつの間にか手に入れていた「ひとり」が心地よかったから。
 懐にショートクリスタルを忍ばせ、十年近くも男はそうして放浪していた。ひとつの地に留まることなく、ただ転々と。どこの空気も、結界は受け入れなかったのだ。

 結界に引き回されるように、男は空虚な旅を続けていた。目的も終わりも無い、ただ歩くだけの旅。彼は街を歩き、村を歩き、野を歩き森を歩き山を歩き、ただただ歩き続けた。結界が彼を歩かせていた。
 彼は、自分が生んだ幾層もの結界の人形だった。人形は両手両足の紐を持つ手に操られ、ただかたかたと無機質な歩みを繰り返した。

 ある日、そうして歩き続ける男の目に何かが映った。
 クリスタル・キャラバン。同族の少女が片腕に抱えた容器から、男は判断した。――判断しただけだ。それ以上のことは何もしない。
 そしてまた歩き出そうとし、男は気づいた。

 彼らは戦っている。それも、必死で。

 男は踏み出しかけた足を止め、彼らを眺めた。少年二人と少女二人、種族は皆バラバラだ。相手にしているのはたった一頭のグリフォン。――この程度の敵に手こずっているとは。こんな頼りないキャラバンがやっていけるのか。
 そう思ったとき、大きく跳び退った少女の横顔がちらりと見えた。
 ――葡萄色のその瞳は、使命に燃えていた。

 ……なるほど、守るべきもの……か。

 自分がどこか遠くに置いてきたものを彼女の瞳に見、男は薄く笑った。
 背に負ったラケットを手に、ゆっくりと彼らに歩み寄る。キャラバンは、戦闘に必死で彼には気づかない。

 ……全ての方位に気をつけなきゃ、死ぬぞ?

 心中で苦笑と共に呟き、彼はラケットを握った手をすっと伸ばして右足を引き、膝を落として力を集中していく。
 その力強い脚がバネとなり、美しい流線を描く。一瞬の跳躍だった。一閃したラケットはグリフォンの首を打ち砕き、更に追い討ちに放ったサマーソルトが魔物を完全に沈黙させた。

「あ、あなたは…………」

 驚き顔の少女に、男はラケットを担ぎながら振り返りもせずに答えた。
「通りすがりの――デスペラードさ」

END



あとがき
デスペラード。ならず者。カッコいいセルキー兄ちゃんが書きたかった……(ぇ
ふと思いついたキャラで孤高のセルキーってのがいて、あぁいいキャラになりそうだな、という訳で書いてみました。
自称ならず者のわりにいい人になりそうな気がします(笑
ここまで読んでくださってありがとうございました。


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