「トキカゼ」


 久々にコーダのキャラバンへ舞い戻ると、例の頼りない面々の中にひとり見慣れない男が混ざっていた。
 まだ二十歳には達していないであろう茶色いクラヴァット。華奢といっても差し支えない細すぎる身体といい優しすぎる顔立ちといい、一見とても頼りなく見える。
 だが、デスペラードはその男から腕の立つ戦い手の匂いを敏感に嗅ぎ取っていた。
 気配を殺しつつ木の上から彼に忍び寄る。穏やかな笑みをそのクラヴァットが向けた相手は、銀灰色の髪の少女。少女が笑い返すその顔を見た瞬間、デスペラードの心臓は燃え上がった。
 はっ、と気付くとさっきまで微笑んでいた優男がこちらを警戒の目で睨んでいた。枝葉に隠れた気配を魔物か何かと思ったのだろう。彼が顔の前にかざした右手は、氷の精を纏って青く輝いている。
 全てを凍てつかせる風が吹きつける一瞬前にデスペラードは枝を蹴った。あと少しでも反応が遅れていたら、この枝もろともに氷像だっただろう。視界を横切る純白の枝にそう思いながら、デスペラードは宙返りで体勢を整えて着地した。

「デスペラード!」

 その姿を認め、コーダのキャラバンが声を揃える。その横でひとり首を傾げる優男。

「……デスペラード<ならず者>?」

 片目を細め、彼は呟いた。そんな彼に、彼と同族の黒服の少年が親しげに声をかける。

「そっか、はやにいくん知らないよね。ボクらの助っ人、デスペラードだよ。すっごくクールで、しかもむちゃくちゃ強いんだ〜!」
「……そうでしたか」

 なおも不審げに優男はぼそりと言った。そりゃそうだ。何せ皆にならず者呼ばわりだ。
 デスペラードは彼とやや距離をとって立ち、無愛想に言った。

「デスペラード。……本名は忘れたいんでな。名の通りの者だと思え」

 その言葉にならず者がキャラバンの助っ人ですか、とでも言いたげに苦笑し、優男は頭巾を取って名乗った。

「分かりました。……ノビスケのハヤテです」

 頭を下げた彼を見て、思わず”疾き風”と呟く。この優男にはあまりにも似合わない、鋭すぎる名。
 しかし先ほどの魔法戦士の瞳を思い出し、デスペラードは小さく頷いて率直な感想を述べた。

「珍しい名だな」
「よく言われます」

 複雑にハヤテは微笑んだ。ハヤテ。クラヴァットには、というよりこの世界の人間の名としては珍しすぎる、どこか遠い異国の古い古い言葉。その意味は、疾き風。
 一歩前に出てハヤテの肩に手を置き、このキャラバンのリーダーが説明する。

「ハヤテ君はノビスケのキャラバンで副リーダーなんだ。でも、しばらくこっちに助っ人に来てくれてるって訳。すっごく頭は良いし魔法もすごいし、もうボクの面目丸つぶれ〜」
「クラヴァットに負けてどうする」

 おかしそうに言ったリタルダンドを一喝したその言葉は、自分にも突き刺さった。
 狙った獲物を掠め取って生きる、それがセルキー。
 顔を合わせるたび、その声を聞くたび、胸の奥をじわりと溶かす少女。狙い打つにはあまりにも高く遠く、届きそうに無い大空を自由に飛び回る美しい梟。彼女を掠め取るには、自分はあまりにも汚れた狩人。
 そう思って弓を持てずに居るうち、吹き抜ける風に乗って梟は行ってしまう、そんな気がして。
 梟と疾き風の交わした笑みが特別なものに思えて仕方なくなって。
 急に喉元が熱くなった。ならず者を自称する男はその理由を半分知っている。

 優しい顔をした烈風に負けてなるものか。
 唇を軽く噛んで自分に誓う彼を、”疾き風”は不思議そうな目で見つめていた。

END



あとがき
デスペラード、盛大に勘違い。
この後ハヤテに酒盛って本音を聞き出そうとするならず者とかハヤテとデスペラードどっちをヴィオとくっつけるか勝手に悩むアリアとか事の顛末を聞かされて笑い転げた挙句に副長を色男呼ばわりしまくるノビスケチームとか、色々ネタは浮かんでます(笑
その辺のネタもいつか文にまとめてみたいなぁ。
ここまで読んでくださってありがとうございました。


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