「バッシュアタック」


 熱い地面を蹴って間合いに飛び込み、クアールを振るうヒゲもろともにばっさりと横薙ぎに斬る。
 ふとこの剣を振るっていた幼友達の姿が自分に重なった気がして、ル・ディアはしばし動きを止めた。

(……あんたが居なくなってから、もう五十日以上経つんだね)

 ぼんやりと虚空を見つめ、心の内で彼にそう語りかけた。

(どうして……どうしてあんたの剣を持って、あんたの嫌いだった火山なんかに居るんだろうね)

 ヴェレンジェ山での戦いから数年。すでに瘴気は絶え、最近は魔物も激減している。放っておいてもいずれ滅びるであろう魔物たちの中の一頭――もう一匹のクアールに狙いを定め、気合を溜める。
 気合充分、そう感じた瞬間に大地を蹴り飛ばす。  彼がやっていたように盾で殴りつけるのではなく――盾なんか持ってきていない――自慢の脚から踵落としを繰り出して怯ませる。そして、一閃。
 バッシュアタック。剣術の苦手な彼が、唯一得意だった必殺剣。
 どうしてだかぴったりと手に馴染む剣の柄を握ったまま、軽く息をつく。と同時、涙が頬を伝っていることに気付いた。

(この技、兄貴と何度も特訓してたっけ)

 魔法に頼ってばかりじゃ駄目だと言って木剣を懸命に振るう少年の姿ははっきりと覚えている。日が暮れるまで響き続けたばしばしという音も。

(あんまりにも頑張りすぎて、最後には熱出して倒れちまってさ。……バカな奴だよ)
「本当、バカな奴だよ」

 もう一度今度は声に出して呟く。

「どうして、こんなすぐに居なくなっちまうのかな……もっと一緒に居たかったのに。そうさ、昔からあいつはそうだったよ。バカだった! あの頃から全然進歩してなかったじゃんかよ!」
(シェラで魔道の……水の属性の研究に打ち込んでるってあんたの手紙。あんたの母さんが見せてくれたとき、どんな顔してたと思ってんだよ。あの子はのめり込むと倒れるまでやめないから、って心配してたんだぞ……裏切り者)

 実際彼は倒れてしまった。それでも血を吐くように咳き込みながら古文書を貪るように読み解いている彼を見るに見かねて、師匠であるユークは彼を一度村へ帰した。
 だが――彼がもう一度師の元へ戻ることはかなわなかった。
 それは、穏やかな冬の日のこと。ル・ディアにだけそっと胸の奥に溜めていた想いを囁いた彼は、家族が、かつての仲間が、そしてル・ディアが引き止めたにも関わらず、ひとりで行ってしまった。

(ソレントが、大事にしてた水仙の花壇を全部思いっきり刈り取った)

 大好きだったあの甘い香りをしばらく避ける様になった。絶対にあいつのせいだ。
 あいつは熱に浮かされてぜーぜー言ってた癖に、行っちまうその日だけは朝から気味悪いくらい穏やかで。
 水仙の白と黄色の花の中で、あいつは小さい子供が昼寝してるような、そんな顔をしてた。
 その穏やかな表情と最後に囁かれた言葉を思い出し、ル・ディアはがくんとかがみ込んだ。

「ふ……」
(ふざけんなバカ野郎……言いたいだけ言って、ひとの返事も聞かないで……って、あの時言ったけど。もう一度言ってやろうか? ふざけんな、バカ野郎!)

 どちらかと言えば、それば自分に向けた言葉だったかも知れない。
 彼が消えてしまった瞬間にバカ野郎と罵ったときを最後に、ル・ディアは泣かなかった。彼を葬っている間も村外れに眠る彼に花を手向けるときも、どうしてだかいつものように意地を張ってこらえていた。

(どうして嫌だったんだろ。……あんな時まで弱みを見せたくなかったなんて)

 剣をぎゅっと握り締め、左腕で涙を拭って立ち上がる。熱い空気が揺れた。
 もう一度だけ彼を罵るその言葉をそっと口にする。
 そして――全てを叩き斬るように、彼女は虚空にバッシュアタックを繰り出した。



END



あとがき
午前4時半に蚊に起こされる寸前に見ていた夢がこんなんでした(苦笑
冒頭のクアール叩っ斬る場面はまんまその夢です。
最初はル・ディアの夢オチで考えてたんですけど、あまりに重くてル・ディアの寝覚めを悪くしそうだったのでやめました。
ハヤテ……若死にかぁ(遠い目
いや、別にこれで彼の未来確定じゃないはず……ですけど……(自信無

風「……え、短命確定なんですか僕…………?」
紅「良い人ほど早く死ぬとはよく言ったもんね……」
風「いやいやいや! まだ死にませんってば!!」
町「あら、この夢ネタなにげにクラヴァットお題の方と繋がってませんこと?」
風「……確定ですか…………?(涙」

ここまで読んでくださってありがとうございました!(逃
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