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「るーられるー、るれれー、るーらーらー、んっん〜♪」 濁った青空の下、村からは幾分離れた野原にしっかと立つ樫の大樹。その下で、空色の髪と瞳を持つ少年――エイルは、今日も能天気に歌っていた。 わずかに薄紅を帯びた細い指先が、タムの上で軽やかに躍る。 「……吟遊詩人か?」 「んー? そうだけどぉ?」 気持ちよく歌っていたのを中断され、少し不機嫌になりながらエイルは目の前に現れた青年に答えた。 朱金の髪と夕焼け空の瞳を持ち、やはり夕陽を想像させる色合いの服に身を包んでいる。そして、その上には鉄製の鎧。 それが、青年の外見だった。歳は二十代に入ったばかりというところか。 「そうか。……すまないが、一曲頼みたい」 「今歌ってたやつ? 普通の歌? それともサーガ?」 食堂のメニューでも提示するように、彼は青年に問う。 「サーガ……クリスタル絡みの歌を」 やや低い声が短く答える。 「ん〜……クリスタル、ねぇ……」 ふわりとした青い髪を掻きながら、エイルは唸った。 「……ないのか? ならば、別に……」 青年が言いかけたのと、エイルがぽんっ、と手を打ったのは同時だった。 「うん、あったあった! しばらく歌わなかったから、ひょっとして忘れてるとこあるかもだけど……その辺は適当でいいよね?」 青年の返事を待たずに、エイルはタムを叩き出した。 「――光の結晶は全てを生み出し 我らを育み護りしもの……全てはその恩恵、光の飛沫……」 空の青に吸い込まれるような、繊細な旋律。先ほどの能天気なメロディとはうって変わって、静かな優しさが滲んでいる。 青年は、顎に手を当てて聞き入っている。時折小さく頷きながら、彼はじっと立っていた。 「ひとは飛沫を浴び 力を手にした……力あるところに戦は生まれ、光に光は焼かれ、失われし光はどこへゆく――」 静かにタムを叩きながら、間奏らしいメロディをフムフムとハミングする。 「……光は、枯れたまま――」 優しく手を置くようにタムをひとつ叩き、エイルは大きく頷いた。「おしまい」の合図だ。 「はい、おしまい。……って、あれ? ど、どしたのー?」 青年の顔を見て、しばしばと大きな瞬きを繰り返す。 彼は、こちらを睨んでいるのかと思ってしまうほど厳しい表情をしていた。その目は、エイルを貫いてどこか別の場所を見つめていた。 「……いや……その先はないのか? 光を戻す方法は?」 視線をエイルに戻し、彼はそう言った。 「…………そんな方法がサーガの中にあったら、王様たちはキミたちをあっちこっちに派遣しないでボクら詩人をかき集めると思うけど?」 エイルは、あくまでにっこりと笑っていた。 「……やはり、か……すまなかった」 「ちょっと待ってよ」 立ち去ろうとした彼を、エイルは笑ったまま呼び止めた。 「?」 振り返った彼に向け、右手のひらを差し出す。続いて親指と人差し指で円を作り、残った三本の指をちょいちょいと招くように動かす。 「兵士さ〜ん、お金は? 世の中ギブアンドテイクでしょ?」 言って、さらにぴこぴこと指を動かす。 青年は、嘆息しながら答えた。 「歌から得た情報はない。だから、情報料は払えない」 「あのねー……たとえ情報がいっこも無くても、こっちはこれがお仕事なの。歌を聴いてもらって、それでお金もらってるの。分かる?」 ぽんぽんと開いた左手でタムを叩き、彼は唇を尖らせた。 「……分かった、払おう。幾らだ?」 「それはキミ次第だよ。ボクの歌がすごくいいと思ったら、それに見合うお金をくれればいい。ダメダメなら……まぁ、一応十ギルからね」 言って、エイルは肩をすくめた。 「成る程、そういうものなのか……分かった。お前の歌、悪くなかった」 ひとり納得したように呟き、彼は幾枚かの硬貨をエイルに握らせた。 「ではな。また会えたなら、その時も一曲頼もう」 「あ、待って!」 「……まだ何か?」 もう一度呼び止められ、彼は歩き出しかけた足を止めた。 「また会いたいって意味でしょ? じゃあ、名前教えてよ。覚えとくからさ」 「……アレグロだ」 小さく笑い、アレグロは今度こそ歩いていった。 鎧の青年が去ったのを見て、エイルはそっと拳を開いた。 「……うっわぁ。あの兵士さん、ホントにボクらのこと知らないんだなぁ……まぁ、これで当分お小遣いには困らないなっと!」 満面の笑みを浮かべ、彼は大振りな金貨を貯金箱代わりの小瓶の底――中身の硬貨は、受け取ったものより幾分小さい――にジャラジャラと落とした。 「ふっふ〜♪ ふるる〜♪ ゴールデンコイン、ゴールデンコーイン〜、チリンチャリンチョリ〜ン♪」 彼にとっては余程大きな額だったらしい。全身に喜びを浮かべ、彼は景気良くタムを叩き出した。 ☆ ★ ☆ 「お前、何をしている? ここは危険だ、早く去れ!」 通りがかった若者に向かい、兵士は怒鳴った。朱金の髪が跳ねる。――そう、先刻エイルに歌を頼んだアレグロだ。 「何……って、今通りがかっただけだが……危険なのか?」 言って、茶髪の若者はひょこんと首を傾げた。その左の頬に、羽を閉じた揚羽蝶が刺青になって止まっている。――どこかの部族には、そういう慣習があるという。彼もそういった出身なのだろうか。 若者の出身はともかく、身に付けている黒い服の形を見れば旅人なのはすぐに分かった。 「……俺の前にいるのが何か分かるか?」 目の前にいる二頭の「それ」に素早く向き直りざま、鋼の長剣を閃かせながら夕陽の兵士は若者に問う。 「それ」は水牛に似た巨大な身体をぶるんぶるんと振るわせ、太い足先の蹄で地面を蹴っている。蹄が触れるたびに、地面はえぐれて土ぼこりが舞った。 「何……って、あれだな。ベヒーモス。しかも繁殖期で気が立ってるやつ二頭」 ベヒーモス。若者がその名を言い当てた魔物の一頭は、次の瞬間咆哮して兵士に頭突きを繰り出す。 アレグロは大きく跳び退りながら盾を構え、若者に向かってさっき以上の大声を出した。 「分かってんならさっさと立ち去れ! 危険だっつってんだろ!! 命惜しくねぇのかあんたは!」 「いや、そりゃ惜しいけどさ……上、見たほうがいいぞ」 「は?」 言われたとおりに上を見上げる。空にくっきりと見える有翼の魔物。それも、一匹二匹ではない。 ――その数、ざっと三十。 「グリフォンいるから気をつけた方がいいと思うぞ」 「あぁ、あぁ、分かった気をつけ……てどうにかなると思ってんのかぁぁっ!」 ベヒーモスの堅い皮膚を斬りつけ、その感触に舌打ちしながらも彼は若者に突っ込んだ。 空から来る魔物の群れ。気をつけてどうにかできるというものではない。……と言うより、そっちに気をつけていたらベヒーモスの一撃で悲惨どころではない目に遭うだろう。 「あんた、そう叫ばなくても……。心配するな、グリフォンなら俺が落とすさ」 言うが早いが、若者は背中に負った弓の弦を一瞬で張りつめる。 強く強く引き絞り、かけられた力に弓が大きくしなる。鏃は震えることも無く、上空を飛び回るグリフォンのただ1匹をまっすぐに狙っている。 空が裂ける。 弦から解き放たれた矢は、風と一体化して見えない直線を描く。 次の瞬間、アレグロの真横に喉笛を貫かれた魔物が降って来た。 「……! ……あんた、凄いな……」 グリフォンはかなりの高度で旋回していた。その中の一匹に狙いをつけ、こうも正確に急所を射抜く……並の腕前では、とうていできまい。 「まぁ、一応戦い屋だからな」 言いながらも、彼は次の敵に狙いを定めている。 アレグロは剣の柄を握りしめ、雄叫びと共に再びベヒーモスに斬りかかった。 晴れ時々グリフォン。数分間は安定していたその天気が、いきなり変化した。 空から降ってくるものが無い。――しかし、頭上からはまだグリフォンの甲高い鳴き声が聞こえてくる。 「おい、どうした!?」 ベヒーモスの横手に回りながら、若者に問う。まさか、魔物に倒されたのか…… だが、彼は傷ひとつ無い姿でそこに立っていた。片手にはちゃんと弓も持っている。 「まだ敵が空に……」 「……それなんだが、あれだ。矢がもう無い」 さらりと彼は言ってのけた。まるで、「あ、また晴れてきた」と空を見て呟くかのように。 「ここの所金欠気味でな……買い足してなかった」 「…………仕方ない。下がっていろ!」 「分かった」 答え、若者はあっさりと後ろに下がる。 ……素直に言うことを聞いてくれた方が楽なのは確かだが、こうもあっさりいかれるのも何か腑に落ちないような気がする。 しかし、文句を言っている場合ではない。 アレグロは剣を引き、突き攻撃の構えを取った。 腕にぐっと力を込め、その力をまっすぐ前に滑らせる。 「ストライ!」 アレグロが両手に持った剣をベヒーモスの頭蓋めがけて突き出した瞬間、後ろの若者が叫んだ。 その声は薄赤い光となり、剣の周囲を漂ったかと思うと一気に刃に収束し、剣全体を包み込む! 一瞬の後、アレグロの剣はベヒーモスの頭に深々と突き刺さっていた。 ゆっくりと剣を抜くと同時に、ベヒーモスの巨体が地に倒れる。 「……嘘だろ? 俺が貫いたのか……?」 騎士としての訓練を欠かさなかった彼の力は、決して弱いものではない。むしろ、かなり強い部類に入っている。だが、それにしても一撃でベヒーモスの頭蓋を突き砕くなど不可能な話だ。 「おい、びっくりしてる場合じゃないと思うぞ?」 後ろからの声。次の瞬間、アレグロは反射的に盾を上に構えていた。 硬いもの同士がぶつかり合う音が響く。ひとつはアレグロの盾、もうひとつはグリフォンの嘴だ。盾を構えていなければ、自分も先ほどのベヒーモスと同じ運命を辿っていただろう。 「このっ……! 魔物風情が!」 赤い光に包まれた剣を突き上げる。しかし、グリフォンはキョンと一声鳴いて空高く舞い上がる。赤い軌跡だけが、むなしく残った。 「……ありゃ馬鹿にされてるな。完全に」 鳴きながら飛び回るグリフォンを見上げ、若者は呟いた。 「ホントだ〜、こりゃ随分バカにされちゃったねぇ? アレグロ?」 呑気な声に振り返ると、空色の詩人が前髪を片手でかき上げながら空を見上げていた。 「なっ……さ、さっきの……」 「やぁ、またすぐ会っちゃったね〜」 にっこりと笑って片手を振ってみせるエイル。彼は肩に引っ掛けるように担いでいた袋を下ろし、お気楽な調子を保ったまま聞いた。 「どしたの? こんなとこでグリフォンにバカにされてるなんてさ」 「繁殖期で気が立ってるベヒーモスの縄張り争いに巻き込まれて苦戦中にグリフォンの群れがお帰り、強力な助っ人は矢切れで役に立ってない」 ため息をつき、遠い目をしながらアレグロは一気に答えた。 「役に立ってないか〜……結構自信あったんだけどな、さっきのストライ」 ちょっと残念そうに、後ろで青年が呟いた。 「すと……? さっきのは、あんたの魔法だったのか?」 「他にどういう理由があるんだ? ……あ、そっか。どっかお城の兵隊さんって感じだっけなあんた。城の方では武器にイルミネーションをつけるのが流行ってるとかで気づかなかったのか?」 納得したように、彼は手を叩いた。 「な訳あるか! んな流行りはねぇ!! つーか、イルミネーションやるエネルギー残ってたら休戦しとらんだろうが!!」 もう一頭残っているベヒーモスをざしざしと斬りつけながら、アレグロは苦笑とも必死ともとれる表情で怒鳴った。 「……なかったのか」 「ねぇよ!!」 力いっぱい否定し、アレグロはぶつぶつと呟いた。 「……ったく……グリフォンにはナメられる、ベヒーモスはご機嫌斜め、しかも突風魔法かオーガの斧が後ろに居るときた! やってられっか!」 ぶん、と音を立て、八つ当たり気味に振るわれた剣がベヒーモスの前足を深く斬る。 痛みか怒りかはたまたその両方か、ベヒーモスは声を上げて突進の構えを取る。こんなもん、食らったらまずあの世逝きだろう。 「そんじゃあ、魔物さんにはまとめて居なくなってもらえばいいんじゃない?」 気楽な口調は言うまでもない、エイルだ。 「だーかーらー、それができりゃ苦労しない」 言ったアレグロに、エイルは満点のテストを見せる子供のそれと同じ笑顔を向けた。 「できるの。……じゃ、いっくよ〜」 エイルは袋からタムを取り出し、柔らかく叩き始めた。 「イアウァ オーグ エム エヴァ エル――」 どこの国のいつの時代の言語ともつかない、不思議としか言い表しようの無い言葉が流れる。平坦なメロディが、その詞の不思議さをさらに強調していた。 「エム エヴァ エル――」 囁くように繰り返す。エイルの手はタムの上で交互に上下し、語りかけるようなリズムを生んでいる。 静かな歌声だが、それは不思議と大きく広がっていく。 アレグロは、その奇妙な光景をただ突っ立って眺めていた。 突然、グリフォンの一匹が声を上げた。その声を空に響かせながら、グリフォンはくるりと北を向いて飛び去った。他のグリフォンたちがそれに続くところを見ると、どうやらあれがリーダーだったらしい。 アレグロは安堵の息をつきかけ、まだベヒーモスが一頭残っていたとそちらを慌てて振り向く。 ――ベヒーモスは、姿を何処かに消していた。 「どういうことだ?」 既に歌うのをやめている少年に向かい、アレグロは問うた。 「どう……って、ただ歌っただけだよ?」 「あぁ。俺もそう思う。彼は歌っただけだ。……歌詞は分からないけどな」 頷き、弓を持った若者もエイルに同調した。 「だから、さっきの歌だ。何か特別なものじゃないのか?」 アレグロの問いに、エイルはタムをしまいながらあっさりと答えた。 「んー、多分ね。随分前に覚えたやつなんだけど、歌の意味は知らない。まぁ、魔物には”大人しく帰れ”って聞こえるんじゃない?」 「……そういうものなのか」 「うん」 ……まぁ何にせよ、魔物は去ったのだからいいのだが…… 「で、兵隊さん。さっきから思ってたんだが……あんた、魔法には疎いのか?」 若者に問われ、アレグロは頷いた。 「あぁ……恥ずかしながら、な。周りに魔法を使うものが居なかった」 「そうか。じゃあ解説させてもらうと、さっきのストライは強化魔法のひとつだ。唱えた術者の魔力をオーラって形にして武器を包み込む。要するにまぁ、剣に即席のパワー付加をしてやった訳だ」 「…………そうなのか。何はともあれ、助かったのは紛れも無い事実だ。礼を言う」 「いやいや……」 アレグロが頭を下げると、若者はぼんやりとした笑いを浮かべた。……ぼんやりと言うか、元の顔が眠そうに緩んでいるのでどうしても表情がぼんやりして見える。 ☆ ★ ☆ 「……で、アレグロ。キミさ、あれでしょ? どっかの王様だかお貴族様だかの命令で、クリスタルに光を戻す方法探してるんだよね?」 「カーヌーン公だ」 律儀にそう言って、アレグロは頷いた。 「カーヌーン……あぁ、あの西の地方だっけか」 使った弓を調整しながら、旅装の若者も呟く。 「へー、知ってるんだ? メジャーどころじゃないと思うけど」 エイルの言ったとおり、西方に位置するカーヌーンはそれほど有名な地方ではない。特に武力が強い訳でもなく、個性のある文化も少ない。古い歴史はないが、新興の勢力という程でもない。 要するに、これといった特徴の無い地方なのである――よそ者からすれば。 田舎騎士で悪かったな、とアレグロがエイルを不機嫌な目で睨んだ。 「知ってるさ。俺、傭兵やってるしな」 弓をいじる手を止めずに、若者は答えた。 「傭兵……そうなのか。それだけの腕だ、ギルドでも名高いのだろう?」 「いや。ギルドってのは俺の肌に合わないから……フリーで動いてる」 ようやく満足したように手を止めて、若者は無造作に答えた。 「で、兵隊さん……アレグレットさんだっけか?」 「アレグロだ」 即座にアレグロは訂正した。どこをどう聞いたらアレグレットになるんだ。 「まぁ、言いたいことは分かった。金が尽きたから仕事を探しているところに、でかい仕事を持った奴が現れた――そういうことだろう?」 「察しが早いんだな。とは言え、あんたの一存じゃ決められないことだろう? どうするんだ?」 「主に問い合わせる」 答え、アレグロは盾の裏を下敷き代わりにさらさらと手紙を書き始めた。 「え……っと。あんた、名前は?」 「俺か? クレハだ。クレハ=ノアラグ」 「分かった」 数分もしないうちに、アレグロはペンのインクを拭って荷物に突っ込んだ。手紙自体はごく事務的で、とても短いものだ。 彼はそれを封筒に詰め、立ち上がった。 「おい、どこへ行くんだ?」 「町だ。持っていても用件は伝わらんだろう」 クレハの問いに、アレグロは振り返りもせずに答えた。 ☆ ★ ☆ 宿の窓から、暮れかかった空が見える。朱橙から藍色へとグラデーションを描く空に、小さな影がひとつこちらへ向かってくる。 影はだんだんと近づき、その輪郭をはっきりとさせた。猫に似た頭を持つ、二頭身半の生物。大陸の郵便配達人、モーグリだ。 「アレグロー。モグが来てるよ〜」 窓を開けて手を伸ばし、モーグリの頭のボンボンを撫でながらエイルがそう言う。アレグロは腰掛けていたベッドから立ち上がり、窓に歩み寄る。 「あなたにお手紙のお返事クポ!」 手紙をくわえたまま、モーグリは器用に告げた。 礼を言い、窓を閉めてからアレグロは手紙の封を切った。さっと目を通し、もう一度読み返す。 顔を上げ、暇そうにベッドに寝そべっているクレハを振り返る。 「おい、クレハ。OKが出たぞ。……まぁ、受けるかどうかはあんたの自由だがな」 「そうか。……なぁ、その仕事って完遂したら何週間分の生活費になる?」 むくりと起き上がり、彼は欠伸交じりに問うた。 「何週間って…………週単位の金になる訳ないだろ」 ひと呼吸置き、アレグロは答えを告げる。 「半年は堅い」 「半年か……すげぇんだな」 「まぁ、我々の存亡にすらかかる話だからな」 「そうだろうな、それは。よし、その仕事……請けよう」 深く頷き、クレハは言った。その切れ長の青い目が、アレグロの顔を写しながら輝いている。 「決定だね。じゃあ、二人とも頑張ってねぇ〜」 既に暗くなっている空を眺めていたエイルが、完全に他人事といった調子で言った。その目は、はっきりと窓の外に向けられている。 「二人とも……って、おい、お前は?」 アレグロの問いに、エイルはあっさりと答えた。 「来て欲しかった〜? ごめんね、ボクはただの吟遊詩人だから。ついて行く理由なんてないでしょ?」 「まぁ、確かに理由はないな」 納得するクレハの横で、アレグロは拳を握った。 「お前……大陸が死んでもいいのか?」 「キミたちが大陸を救えるとは限らないしね〜」 少し意地悪い声が返ってくる。 「それはそうだが……! お前は、大陸を救いに行く気はないのか?」 「だーかーらー、ボクはただの詩人なの。戦いの役には立たないの。一緒に行く意味なんかないでしょ?」 「いや、役には立った。昼間の歌のことがあったからな」 あっちゃー、と呟き、エイルは額に手をやった。 「分かった、ハッキリ言うよぉ。行く気はないよ。さらさらね」 |