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かつて、この大陸はクリスタルに守られていた。 クリスタルはその大いなる光で大地を照らし、あらゆる力を生み出した。 クリスタルの力は大陸に溢れ、人はその力を手に文明を築き上げてきた。 しかし、力あるところに争いが生まれるのが世の常。そして、ここもその例外ではなかった。 数十年にも及ぶ殺し合い、奪い合いの日々――いつしか殺戮の大義すら忘れられ、戦いのための戦いが続いた。 だが、戦争は膨大なエネルギーを消費する。 世界に溢れていたクリスタルの力は奪い去られ、搾り取られ、ついにはクリスタルの光さえも失われてしまった。 クリスタルの光が無ければ、世界はそう長く生き延びられない。全ての力は失われるのだ。 大陸の全ての勢力は二年前より休戦協定を結び、クリスタルに光を戻すべく、多くの兵士を、戦士を、傭兵を派遣した。 しかし、未だにクリスタルに光は戻らない…… 世界の寿命は、今この瞬間も縮み続けている。 ☆ ★ ☆ 空は晴れている。……確かに晴れているに違いない。だが、その青色は薄く濁っている。これもクリスタルが死にかけていることの影響だ。 濁った青空の下、ひとりの少年がタムを目の前に胡坐を組んで歌っていた。年の頃、十四、五くらいだろうか。薄青い髪は肩にこそつかないが、少年のそれにしてはやや長い。夏空の色をした目は楽しげに細められている。腰までの短いマントを始め、青を中心とした色の――かなりの軽装だ。 「ワサンボーン♪ トロンボーン♪ ボボンボボムッ、ボンボ〜ン♪」 少年の両の手が軽快にタムの上を踊る。まだ変声期に入りきっていない明るい歌声は、吹きゆく風のように流れる。……ただ、歌の内容は意味不明の域をすでに飛び越えているが。 「ん〜んん〜、んっん〜♪ ワヨンホン〜♪」 ……とても楽しげに、また嬉しそうに歌っている。しかし、知らない人間が聞いたら春に当てられた不憫な少年だと思うかも知れない。……この歌詞をどう理解すればいいのやら。 ふと少年は歌うのをやめ、顔を上げた。こちらに近づいてくる人影ひとつ。 彼はにまっと笑みを浮かべると、再び歌いだした。 「――渡る風 光る 空の向こうへ どこまでも 春は広がる……この青抱きしめて この青吸い込んで 人も野も風になる――」 再び、澄み切ったボーイソプラノが旋律を成す。……今度は意味の分かる単語の並びだ。 「……何だ、普通の歌も歌えるじゃないか」 近づいてきた彼は足を止め、片目を細めた。 見た目十代後半ほどの、すらりとした若者だ。真夜中の空の色をした腰に届く髪を端の方で束ねている。やはり宵闇の色をしたローブといい、彼は一見魔道士に見える。 しかし、彼が頭に巻いた細いバンドに挿された黄色い羽――それが、彼の身分を表していた。 「まーねー。ねぇ、キミも吟遊詩人?」 「よく分かったな」 詩人の若者は、無表情を崩さない。 「だって、頭に羽挿してるなんて……詩人か山の方に住んでる女の子くらいでしょ?」 「まぁ、な。……も、と言ったな。じゃあ君もそうなのか」 「うん。見ての通り、トムトム叩きの詩人だよ。名前はエイル、歳は十五。ヨロシクねっ!」 言って、彼は前に置いた小型の太鼓をたんっ、と軽く叩いた。 「宜しく……か。再び逢うことはあるかな」 言い残し、彼は去っていった。 撫でるように、春の風が吹いた。 「あっ……行っちゃったぁ。もうちょっとお喋りしたい気分だったのに」 エイルはしばらくむっつりしていたが、やがてまた歌いだした。 「ヘブン、ヘブン、マイヘブン〜、ブンブクチャガマのクマンバチ〜♪」 やはり、歌詞の意味は分からない。 やがて少年は歌うのをやめ、立ち上がってんんっと大きく背伸びをした。 タムを傍らの袋に納め、空に語りかけるように呟く。 「あーあ。ネタも尽きてきたなぁ……なんか普通の歌のネタ、転がってないかなぁ?」 |